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自作小説 歪な大罪 「 Ⅰ 創造」

ある詩人がいた。

詩人は売れなかったが妻が稼いでくれたので、生活に困らず彼女も彼を応援していた。

しかし、彼は満たされていなかった。

大切な存在がいても自分の満足のいく作品を書けなくては意味がないのだ。

彼女はそんな彼を気遣い、「山にでも登りに行きましょうよ。詩のインスピレーションが湧くかもしれないわ」と持ちかける。

彼は承諾した。そして1週間後に山へ出かけた。

しかしその思惑通りにならなかったのだ。詩を作ろうとしても作れないのだ。

それを見かねた妻は「もう良いでしょう。あなたは頑張ったわ、これ以上やっても心を病むだけ、もうやめましょう」と言う。

その1言で彼の中の何かがプツンと切れた。詩人は妻を石で殴り、殺してしまった。

彼はしばらく動けないでいた。恐れからではない。彼は妻を殺した後の不思議な感覚に浸っていたのだ。

周りが白黒になり、輝きが感じられない感覚に。

彼はハッと気づく、この感覚を詩にしてしまえばいいと。

「燈火が消えた。

それから私は動けない。

色が消えた。

それから私はひとりぼっち。

そして輝きも消え去った。

残るは紅の水溜り」

彼は妻の死体を山に隠し、警察には「妻が消えて探したら血だまりを見つけた。妻が事件に巻き込まれたかもしれない」と言った。

間もなく、妻の死体は見つかり、捜査が始まった。

彼はその後、妻を殺した後に書いた詩を公開し、「妻を失った悲しき詩人と名を馳せ、彼の詩集は売れた。

彼は名声と大金を手に入れた。しかし、彼の心には穴が空いていた。そう、愛する妻がいないのだ。

彼は数日、荒れた部屋で呆然としていた。

すると彼の目に壁に飾られた結婚式の写真が映る。

詩人は「そうだ、俺はあいつが大切だったんだ。金も名声もいらない。あいつさえ居ればそれで良かったんだ。俺もあいつの所に行こう」

彼が命を絶った部屋には1枚の紙切れが残されていた。

「本当は詩人らしく詩で遺書を書こうと思いましたがやめます。
妻を殺してそれを詩にした私には詩を書く資格はないのです。
私はくずです。
妻を手にかけといて私は妻を恋しく思うのです。なので私は妻に会いに行きます。
ではさようなら」

と書かれていた。この事件は世間を騒がせた。

もしも時間が戻せるなら詩人は妻を手にかけなかったのだろうか。それは私にも分からない。